と、消えかかった松明が赫《かッ》と燃えて、あれあれ、女の身の丈に、めらめらと空へ立った。
 先生の身体《からだ》が、影のように帰って来て、いましめを解くと一所に、五体も溶けたようなお道さんを、確《しか》と腕に抱きました。
 いや何とも……酔った勢いで話しましたが、その人たちの事を思うと、何とも言いようがねえ。
 実は、私《わっし》と云うものは……若奥様には内証だが、その高崎の旦那に、頼まれまして、技師の方が可《い》い、とさえと一言《ひとこと》云えば、すぐに合鍵を拵《こしら》えるように、道中お抱えだったので。……何、鍵までもありゃしません。――天幕でお道さんが相談をしました時、寸法を見るふりをして、錠は、はずしておいたんでございますのに――
 皆、何とも言いようがねえ、見てござった地蔵様にも手のつけようがなかったに違えねえ。若旦那のお心持も察して上げておくんなせえ。
 あくる日|岨道《そばみち》を伝いますと、山から取った水樋《みずどよ》が、空を走って、水車《みずぐるま》に颯《さっ》と掛《かか》ります、真紅《まっか》な木の葉が宙を飛んで流れましたっけ、誰の血なんでございましょう。」

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