お詫《わび》は、あの世から……)
最後の言葉でございました。」
「お道さんが銀杏返《いちょうがえし》の針を抜いて、あの、片袖を、死骸の袖に縫つけました。
その間、膝にのせて、胸に抱いて、若旦那が、お縫さんの、柔かに投げた腕《かいな》を撫で、撫で、
(この、清い、雪のような手を見て下さい。私の偏執と自我と自尊と嫉妬のために、詮《せん》ずるに烈《はげ》しい恋のために、――三年の間、夜《よ》に、日に、短銃《ピストル》を持たせられた、血を絞り、肉を刻み、骨を砂利にするような拷掠《ごうりゃく》に、よくもこの手が、鉄にも鉛にもなりませんでした。ああ、全く魔のごとき残虐にも、美しいものは滅びません。私は慚愧《ざんき》します。しかし、貴下《あなた》と縫子とで、どんなにもお話合のつきますように、私に三日先立って、縫子をこちらによこしました、それに、あからさまに名を云って、わざと電報を打ちました。……貴下《あなた》を当電信局員と存じましていたした事です。とにかく私の心も、身の果《はて》も、やがて、お分りになりましょう。)
と、いいいい、地蔵様の前へ、男が二人で密《そっ》と舁《かつ》ぐと、お道さんが
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