いてまで、捜させました。流星のごとく天際に消えたのでしょう、一点似た釘も見当りません。――唯今……要求しますのは、その後《のち》の決心である事を諒《りょう》として下さいまし。縫もよくこの意を体して、三年の間、昼夜を分かず、的を射る修錬をいたしました。――最初、的をつくります時、縫がものさしを取って、革鞄の寸法を的に切りましたが、ここで実物を拝見しますと、その大《おおき》さと言い、錠前のある位置と言い、ほとんど寸分の違いもありません。……不思議です。……特に奇蹟と存じますのは、――家の地続きを劃《しき》って、的場を建てましたのですが、土地の様子、景色、一本の松の形、地蔵のあるまで。)
 ――私《わっし》はすくんだね――
(夢のようによく似ています。……多分、皆お互に、こうした運命だと存じます。……短銃《ピストル》は特に外国に註文して、英国製の最優良なのを取寄せました。連発ですが、弾丸はただ一つしか籠《こ》めてありません、きっと仕損じますまい。しかし、御覚悟を下さいまし。――もっとも革鞄と重《かさな》ってお立ち下さいますのに、その間隔は、五|間《けん》、十間、あるいは百間、三百間、貴下《あ
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