方……村上縫子……)
(そしてどちらから。)
(ヤホ次郎――行って来ます。)
(そんな事を聞くもんじゃあない。)
(ああ、済みませんでした。)
(何、構わないようなもんじゃあるがね――どっこいしょ。)
がた、がたんと音がする。先生、もう一つの卓子《テエブル》を引立って、猪と取組《とっく》むように勢《いきおい》よく持って出ると、お道さんはわけも知らないなりに、椅子を取って手伝いながら、
(どう遊ばすの。)
と云ううちに、一段下りた草原《くさっぱら》へ据えたんでございますがね、――わけも知らずに手伝った、お道さんの心持を、あとで思うと涙が出ます。」
と肩もげっそりと、藤助は沈んで言った。……
「で、何でございますよ――どう遊ばすのかと、お道さんが言うと、心待、この日暮にはここに客があるかも知れんと、先生が言いますわ。あれ、それじゃこんな野天でなく、と、言おうじゃあございませんか。
(いや、中で間違《まちがい》があるとならんので。)
(え、間違とおっしゃって。)
とお道さんが、ひったり寄った。
(私は、)
と先生は、肘《ひじ》で口の端《はた》を横撫《よこなで》して、
(髯《ひげ》も
前へ
次へ
全79ページ中56ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング