姉さんが嬉しそうな顔をしながら、
(あの、電信の故障は、直りましてございますか。)
(うむ、取払ったよ。)
と頬張った含声《ふくみごえ》で、
(思ったより余程さきだった。)
ははあ、電線に故障があって、障《さわ》るものの見当が着いた処から、先生、山めぐりで見廻ったんだ。道理こそ、いまし方天幕へ戻って来た時に、段々塗の旗竿《はたざお》を、北極探検の浦島といった形で持っていて、かたりと立掛けて入《へえ》んなすった。
(どうかなっていましたの。)
(変なもの……何、くだらないものが、線の途中に引搦《ひっからま》って……)
カラリと箸《はし》を投げる音が響いた。
(うむ、来た。……トーン、トーン……可《よ》し。)
お道さんの声で、
(旦那様、何ぞ御心配な事ではございませんか。)
一口がぶりと茶を飲んで、
(詰《つま》らぬ事を……他所《よそ》へ来た電報に、一々気を揉《も》んでいて堪《たま》るもんですか。)
(でも、先刻《さっき》、この電信が参りました時、何ですか、お顔の色が……)
(……故障のためですよ、青天井の煤払《すすはき》は下さりませんからな、は、は。)
と笑った。
坂をす
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