りたいか、いや、その骨でこっちは海月《くらげ》だ、ぐにゃりとなった。
(御勝手だ。)
(あれ、そのかわりに奥さまが、活きた私におなんなさる、容色《きりょう》は、たとえこんなでも。)
(御勝手だ。いや、御法度だね。)
(そんな事を言わないで、後生ですから、鋳掛屋さん。)
(開けますよ。だがね……)
 と、一つ勿体《もったい》で、
(こいつあ口伝《くでん》だ、見ちゃ不可《いけね》え、目を瞑《つぶ》っていておくんなさい。)
(はい。)
(もっと。)
(はい。)
(不可《いけね》え不可え、薄目を開けてら。)
(まあ、では後を向きますわ。)
(引《ひき》しまって、ふっくりと柔《やわら》かで、ああ、堪《たま》らねえ腰附だ。)
(可厭《いや》……知りませんよ。)
 と向直ると、串戯《じょうだん》の中にしんみりと、
(あれ、ちょっと待って下さいまし。いま目をふさいで考えますと、お許《ゆるし》がないのに錠前を開けるのは、どうも心が済みません。神様、仏様に、誓文《せいもん》して、悪い心でなくっても、よくない事だと存じます。)
 私《わっし》も真面目《まじめ》にうなずきました。
(でも、合鍵は拵えて下さいま
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