で開けるわけには参りませんの。)
ぶるぶるぶる……私《わっし》あ、頭と嘴《くちばし》を一所に振った。旦那の前《めえ》だが、……指を曲げて、口を押えて、瞼《まぶた》へ指の環を当がって、もう一度頭を掉《ふ》った。それ、鍵の手は、内証で遣《や》っても、たちまちお目玉。……不可《いけね》えてんだ、お前さん。
(御法度《ごはっと》だ。)
と重く持たせて、
(ではござれども、姉さんの事だ、遣らかしやしょう、大達引《おおたてひき》。奥様のお記念《かたみ》だか、何だか知らねえ。成程こいつあ、そのな、へッへッ、誰方《どなた》かに向っての姉さんの心意気では……お邪魔になるでございましょうよ。奥歯にものが挟まったって譬《たとえ》はこれだ。すっぱり、打開《ぶちま》けてお出しなせえまし。)
(いえ、あの、開けて出すよりか、私が中へ入りたい。)
と仇気《あどけ》なく莞爾《にっこり》すら、チェーしたもんだ。
(御串戯《ごじょうだん》で、中へ入ると、恐怖《おっかね》え、その亡くなった奥さんの骨《こつ》があるんじゃありませんかい。)
(もう、私は、あの、奥さまの、その骨《ほね》になりたいの。)
ああ、その骨にな
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