ぱら》に伝わった、電信の鋼線《はりがね》の下あたりを、木の葉の中に現れて、茶色の洋服で棒のようなものを持って、毛虫が動くように小さく歩行《ある》いている形を視《み》た。……鉄砲打の鳥おどしかと思ったが、大きにそんなのが局員の先生で、この姉さんの旦那かも知れねえよ。
が何しろ留守だ。
(鋳掛……錠前直し。)……
と崖ぶちの日向《ひなた》に立ったが、紺足袋の繕い。……雪の襟脚、白い手だ。悚然《ぞっ》とするほど身に沁みてなりませんや。
遥《はるか》に見える高山の、かげって桔梗色《ききょういろ》したのが、すっと雪を被《かつ》いでいるにつけても。で、そこへまず荷をおろしました。
(や、えいとこさ。)と、草鞋《わらじ》の裏が空へ飜《かえ》るまで、山端《やまばた》へどっしりと、暖かい木の葉に腰を落した。
間拍子もきっかけも渡らねえから、ソレ向うの嶽《たけ》の雪を視《み》ながら、
(ああ、降ったる雪かな。)
とか何とか、うろ覚えの独言《ひとりごと》を言ってね、お前さん、
(それ、雪は鵝毛《がもう》に似て飛んで散乱し、人は鶴※[#「敞/毛」、第3水準1−86−46]《かくしょう》を着て立って徘
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