な》って、天に、大波を立てている、……裏の峰が、たちまち颯《さっ》と暗くなって、雲が被《かぶ》ったと思うと、箕《み》で煽《あお》るように前の峰へ畝《うね》りを立ててあびせ掛けると、浴びせておいて晴れると思えば、その裏の峰がもう晴れた処から、ひだを取って白くなります。見る見るうちに雪が掛《かか》るんでございましてね。左右の山は、紅くなったり、黄色かったり、酔ったり、醒《さ》めたりして、移って来るそのむら雲を待っている。
といった次第《わけ》で、雪の神様が、黒雲の中を、大《おおき》な袖を開いて、虚空を飛行《ひぎょう》なさる姿が、遠くのその日向の路に、螽斯《ばった》ほどの小さな旅のものに、ありありと拝まれます。
だから、日向で汗ばむくらいだと言った処で、雑樹一株隔てた中には、草の枯れたのに、日が映《さ》すかと見れば、何、瑠璃色《るりいろ》に小さく凝《こ》った竜胆《りんどう》が、日中《ひなか》も冷い白い霜を噛《か》んでいます。
が、陽の赤い、その時梟ヶ嶽は、猫が日向ぼっこをしたような形で、例の、草鞋《わらじ》も脚絆《きゃはん》も擽《くすぐ》ってえ。……満山のもみじの中《うち》に、もくりと
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