んで、申さずとも娘ッ子じゃありません、こりゃ御新姐《ごしんぞ》……じゃあねえね――若奥様。」

       五

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峰の白雪、麓《ふもと》の氷、
今は互に隔てていれど、
やがて嬉しく、溶けて流れて、
合うのじゃわいな。……
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「私《わっし》は日暮前に、その天幕張《テントばり》の郵便局の前を通って来たんでございますよ。……ちょうど狼の温泉へ入込《いりこ》みます途中でな。……晩に雪が来ようなどとは思いも着かねえ、小春日和《こはるびより》といった、ぽかぽかした好《い》い天気。……
 もっとも、甲州から木曾街道、信州路を掛けちゃあ、麓《ふもと》の岐路《えだみち》を、天秤《てんびん》で、てくてくで、路傍《みちばた》の木の葉がね、あれ性《しょう》の、いい女の、ぽうとなって少し唇の乾いたという容子《ようす》で、へりを白くして、日向《ひなた》にほかほかしていて、草も乾燥《はしゃ》いで、足のうらが擽《くすぐ》ってえ、といった陽気でいながら、槍《やり》、穂高、大天井、やけに焼《やけ》ヶ嶽などという、大薩摩《おおざつま》でもの凄《すご》いのが、雲の上に重《かさ
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