って、それをその少《わか》い貴婦人てった高島田のが、片手に控えて縋《すが》っています……もう笠は外して脊へ掛けて……絞《しぼり》の紅《あか》いのがね、松明《たいまつ》が揺れる度に、雪に薄紫に颯《さっ》と冴《さ》えながら、螺旋《らせん》の道条《みちすじ》にこう畝《うね》ると、そのたびに、崖の緋葉《もみじ》がちらちらと映りました、夢のようだ。
 視《み》る奴《やつ》の方が夢のようだから、御当人たちは現《うつつ》かも知れねえ。
 でその二人は、そうやって、雪の夜道を山坂かけて、どこへ行くんだと思召《おぼしめ》す。
 ここだて――旦那。」
 藤助は息継《いきつぎ》に呷《ぐい》と煽《あお》って、
「この二階から、鏡台山を――(少し薄明りが映《さ》しますぜ、月が出ましょう。まあ、御緩《ごゆる》りなさいまし、)――それ、こうやって視《み》るように、狼温泉の宿はずれの坂から横正面といった、肩でこう捻向《ねじむ》いて高く上を視る処に、耳はねえが、あのトランプのハアト形に頭《かしら》を押立《おった》った梟《ふくろ》ヶ|嶽《たけ》、梟、梟と一口に称《とな》えて、何嶽と言うほどじゃねえ、丘が一座《ひとくら》、
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