聞きなせえ。」
すっとこ被《かぶ》りで、
襟を敲《たた》いて、
「どんつくで出ましたわ……見えがくれに行《ゆ》く段取だから、急ぐにゃ当らねえ。別して先方《さき》は足弱だ。はてな、ここらに色鳥の小鳥の空蝉《うつせみ》、鴛鴦《おしどり》の亡骸《なきがら》と言うのが有ったっけと、酒の勢《いきおい》、雪なんざ苦にならねえが、赤い鼻尖《はなさき》を、頬被《ほおかぶり》から突出して、へっぴり腰で嗅《か》ぐ工合は、夜興引《よこひき》の爺《じじい》が穴一のばら銭《ぜに》を探すようだ。余計な事でございますがね――性《しょう》が知れちゃいましても、何だか、婦《おんな》の二人の姿が、鴛鴦の魂がスッと抜出したようでなりませんや。この辺だっけと、今度は、雪まじりに鳥の羽より焼屑《やけくず》が堆《うずたか》い処を見着けて、お手向《たむけ》にね、壜《びん》の口からお酒を一雫《ひとしずく》と思いましたが、待てよと私《わっし》あ考えた、正覚坊じゃアあるめえし、鴛鴦が酒を飲むやら、飲ねえやら。いっその事だと、手前の口へね、喇叭《らつぱ》と遣《や》った……こうすりゃ鳥の精がめしあがると同じ事だと……何しろ腹ン中は鴛鷲で
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