て、こいつを、丼へ突込《つッこ》んで、しばらくして、婦人《おんな》たちのあとを追ってぶらりと出て行くのに、何とも言わねえ。山は深い、旦那方のおっしゃる、それ、何とかって、山中暦日なしじゃあねえ、狼温泉なんざ、いつもお正月で、人間がめでてえね。」
「ははあ。」
「成程。」
私たちは、そんな事は徒《あだ》に聞いて、さきを急いだ。
「荷はどうしたよ。」
と女房が笑って言った。
「ほい忘れた。いや、忘れたんじゃあねえ、一ぜん飯に置放《おきッぱな》しよ。」
「それ見たか、あんな三味線だって、壜詰《びんづめ》二升ぐらいな値はあるでござんさあ、なあ、旦那方。」
「うむ、まったくな。」
と藤助は額を圧《おさ》えて、
「おめでてえのはこっちだっけ、はッはッはッ。」
四
「さて旦那方、洒落《しゃれ》や串戯《じょうだん》じゃあねえんでございます。……御覧の通り人間の中の変な蕈《きのこ》のような、こんな野郎にも、不思議なまわり合せで、その婦《おんな》たちのあとを尾《つ》けて行《ゆ》かなけりゃならねえ一役ついていたのでございましてね。……乗掛《のりかか》った船だ。鬱陶《うっとう》しくもお
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