ても、雪を持った向風《むかいかぜ》にゃ、傘も洋傘《こうもり》も持切れますめえ、被《かぶ》りもしないで、湯女《ゆな》と同じ竹の子笠を胸へ取って、襟を伏せて、俯向《うつむ》いて行《ゆ》きます。……袖の下には、お位牌《いはい》を抱いて葬礼《ともらい》の施主《せしゅ》に立ったようで、こう[#「こう」は底本では「かう」]正しく端然《しゃん》とした処は、視《み》る目に、神々しゅうございます。何となく容子《ようす》が四辺《あたり》を沈めて、陰気だけれど、気高いんでございますよ。
同じ人間もな……鑄掛屋を一人土間で飲《あお》らして、納戸の炬燵《こたつ》に潜込んだ、一ぜん飯の婆々《ばば》媽々《かか》などと言う徒《てあい》は、お道さんの(今晩は。)にただ、(ふわ、)と言ったきりだ。顔も出さねえ。その(ふわ、)がね、何の事アねえ、鼠の穴から古綿が千断《ちぎ》れて出たようだ。」
「ちと耳が疼《いた》いだな。」
と饂飩屋の女房が口を入れた、――女房は鋳掛屋の話に引かれて、二階の座に加わっていたのである。
「そのかわり大まかなものだよ。店の客人が、飲さしの二合|壜《びん》と、もう一本、棚より引攫《ひっさら》っ
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