へ立ったのは、蓑《みの》を着て、竹の子笠を冠《かぶ》っていました。……端折った片褄《かたづま》の友染《ゆうぜん》が、藁《わら》の裙《すそ》に優しくこぼれる、稲束《いなたば》の根に嫁菜が咲いたといった形。ふっさりとした銀杏返《いちょうがえし》が耳許《みみもと》へばらりと乱れて、道具は少し大きゅうがすが、背がすらりとしているから、その眉毛の濃いのも、よく釣合って、抜けるほど色が白い、ちと大柄ではありますが、いかにも体つきの嫋娜《しなやか》な婦《おんな》で、
(今晩は。)
と、通掛《とおりかか》りに、めし屋へ声を掛けて行《ゆ》きました。が、※[#「火+發」、174−5]《ぱっ》と燃えてる松明《たいまつ》の火で、おくれ毛へ、こう、雪の散るのが、白い、その頬を殺《そ》ぐようで、鮮麗《あざやか》に見えて、いたいたしい。
いたいたしいと言えば、それがね、素足に上草履《うわぞうり》。あの、旅店《やどや》で廊下を穿《は》かせる赤い端緒《はなお》の立ったやつで――しっとりとちと沈んだくらい落着いた婦《おんな》なんだが、実際その、心も空になるほど気の揉《も》めるわけがあって――思い掛けず降出した雪に、足
前へ
次へ
全79ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング