《へめぐ》って……ええちょうど昨年の今月、日は、もっと末へ寄っておりましたが――この緋葉《もみじ》の真最中《まっさいちゅう》、草も雲も虹《にじ》のような彩色の中を、飽くほど視《み》て通った私《わっし》もね、これには足が停《とま》りました。
 なんと……綺麗な、その翼の上も、一重《ひとえ》敷いて、薄《うっす》り、白くなりました。この景色に舞台が換《かわ》って、雪の下から鴛鴦《おしどり》の精霊が、鬼火をちらちらと燃しながら、すっと糶上《せりあが》ったようにね、お前さん……唯今の、その二人の婦《おんな》が、私《わっし》の目に映りました。凄《すご》いように美しゅうがした。」
 と鋳掛屋は、肩を軟《やわらか》に、胸を低うして、更《あらた》めて私たち二人を視《み》たが、
「で、山路へ掛《かか》る、狼温泉の出口を通るんでございますが、場所はソレ件《くだん》の盆地だ。私《わっし》が飲んでいました有合《ありあい》御肴《おんさかな》というお極《きま》りの一膳めしの前なんざ、小さな原場《はらっぱ》ぐらい小広うございますのに――それでも左右へ並ばないで、前後《あとさき》になって、すっと連立って通ります。
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