《おつ》に食えまさ、めしあがれ。――ところで、媽々衆のことづてですがな。せつかく御酒を一つと申されたものを、やけな御辞退で、何だかね、南蛮《なんばん》秘法の痲痺薬《しびれぐすり》……あの、それ、何とか伝三熊の膏薬《こうやく》とか言う三題|噺《ばなし》を逆に行ったような工合で、旦那方のお酒に毒でもありそうな様子|合《あい》が、申訳がございません。で、居候の私《わっし》に、代理として一杯、いんえただ一つだけ。おしるしに頂戴してくれるようにと申すんで、や、も、御覧の通《とおり》、不躾《ぶしつけ》ながら罷《まかり》出ました。実はね、媽々衆、ああ見えて、浮気もんでね、亭主は旅稼ぎで留守なり、こちらのお若い方のような、おッこちが欲しさに、酒どころか、杯を禁《た》っておりますんでね。はッはッはッ。」
階子《はしご》の下から、伸上った声がして、
「馬鹿な事を言わねえもんだ。」
と、むきになると、まるだしの田舎なまり。
「真鍮台《しんちゅうだい》め。」と言った。
「……真鍮台?……」
聞くと……真鍮台、またの名を銀流しの藤助《とうすけ》と言う、金箔《きんぱく》つきの鋳掛屋で、これが三味線の持ぬしで
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