れど。」
「いいえ。」
「それはね、月見の人に、木曾の麻衣《あさぎぬ》まくり手したる坊さん、というのが、話をする趣向になっているんですがね。(更科山《さらしなやま》の月見んとて、かしこに罷《まかり》登りけるに、大《おおい》なる巌《いわ》にかたかけて、肘《ひじ》折《お》れ造りたる堂あり。観音を据え奉《たてまつ》れり。鏡台とか云う外山《とやま》に向いて、)……と云うんですから、今の月見堂の事でしょう。……きっとこの崖の半腹にありましょうよ。……そこの高欄におしかかりながら、月を待つ間《ま》のお伽《とぎ》にとて、その坊さんが話すのですが、薗原山《そのはらやま》の木賊刈《とくさがり》、伏屋里《ふせやのさと》の箒木《ははきぎ》、更科山の老桂《ふるかつら》、千曲川《ちくまがわ》の細石《さざれいし》、姨捨山の姥石《うばのいし》なぞッて、標題《みだし》ばかりでも、妙にあわれに、もの寂しくなるのです。皆この辺の、山々谷々の事なんでしょう。何《なん》にしろ、
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信濃なる千曲の川のさゞれ石も
君しふみなば玉とひろはん
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と言う場所なんですもの。――やあ
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