きさつをちょっと申陳《もうしの》べる。けれども、肝心な雪女郎と山姫が長襦袢《ながじゅばん》で顕《あらわ》れたようなお話で、少くとも御覧の方はさきをお急ぎ下さるであろうと思う、で、簡単にその次第を申上げる。
所は信州|姨捨《おばすて》の薄暗い饂飩屋《うどんや》の二階であった。――饂飩屋さえ、のっけに薄暗いと申出るほどであるから、夜の山の暗い事思うべしで。……その癖、可笑《おかし》いのは、私たちは月を見ると言って出掛けたのである。
別に迷惑を掛けるような筋ではないから、本名で言っても差支えはなかろう。その時の連《つれ》は小村雪岱《こむらせったい》さんで、双方あちらこちらの都合上、日取が思う壺《つぼ》にはならないで、十一月の上旬、潤年《うるうどし》の順におくれた十三夜の、それも四日ばかり過ぎた日の事であった。
――居待月である。
一杯飲んでいる内には、木賊《とくさ》刈るという歌のまま、研《みが》かれ出《い》づる秋の夜《よ》の月となるであろうと、その気で篠《しの》ノ井で汽車を乗替えた。が、日の短い頃であるから、五時そこそこというのにもうとっぷりと日が暮れて、間は稲荷山《いなりやま》ただ
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