する店には、早《は》や佗《わび》しい灯《ひ》が点《とも》れたが、此《こ》の小路《こうじ》にかゝると、樹立《こだち》に深く、壁に潜《ひそ》んで、一|燈《とう》の影も漏《も》れずに寂《さみ》しい。
 前途《ぜんと》を朦朧《もうろう》として過《よぎ》るものが見える。青牛《せいぎゅう》に乗つて行《ゆ》く。……
 小形の牛だと言ふから、近頃|青島《せいとう》から渡来《とらい》して荷車《にぐるま》を曳《ひ》いて働くのを、山の手でよく見掛ける、あの若僧《わかぞう》ぐらゐなのだと思へば可《い》い。……荷鞍《にぐら》にどろんとした桶《おけ》の、一抱《ひとかかえ》ほどなのをつけて居る。……大《おおき》な雨笠《あまがさ》を、ずぼりとした合羽《かっぱ》着た肩の、両方かくれるばかり深く被《かぶ》つて、後向《うしろむ》きにしよんぼりと濡《ぬ》れたやうに目前《めさき》を行く。……とき/″\、
「とう、とう、とう/\。」
 と、間《あいだ》を置いては、低く口の裡《うち》で呟《つぶや》くが如くに呼んで行く。
 私は此《これ》を読んで、いきなり唐土《もろこし》の豆腐屋《とうふや》だと早合点《はやがてん》をした。……処《と
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