た茸《きのこ》であつた。
 やがて、此が知れると、月余《げつよ》、里《さと》、小路《こうじ》に油を買つた、其の油《あぶら》好《よう》して、而《しか》して価《あたい》の賤《いやしき》を怪《あやし》んだ人々が、いや、驚くまい事か、塩よ、楊枝《ようじ》よと大騒動《おおそうどう》。
 然《しか》も、生命《いのち》を傷つけたるものある事なし、と記《しる》してある。
 私は此の話がすきである。
 何《ど》うも嘘らしい。……
 が、雨である。雨だ。雨が降る……寂《さみ》しい川の流《ながれ》とともに、山家《やまが》の里にびしよ/\と降る、たそがれのしよぼ/\雨、雨だ。しぐれが目にうかぶ。……



底本:「日本幻想文学集成1 泉鏡花」国書刊行会
   1991(平成3)年3月25日初版第1刷発行
   1995(平成7)年10月9日初版第5刷発行
底本の親本:「泉鏡花全集」岩波書店
   1940(昭和15)年発行
初出:「随筆」
   1923(大正12)年11月
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
入力:門田裕志
校正:川山隆
2009年5月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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