さうになつたので、はツとすると前《まへ》へ倒《たふ》れた。熱《ねつ》のある身體《からだ》はもんどりを打《う》つて、元《もと》のまゝ寢床《ねどこ》の上《うへ》にドツと跳《をど》るのが身《み》を空《くう》に擲《なげう》つやうで、心着《こゝろづ》くと地震《ぢしん》かと思《おも》つたが、冷《つめた》い汗《あせ》は瀧《たき》のやうに流《なが》れて、やがて枕《まくら》について綿《わた》のやうになつて我《われ》に返《かへ》つた。奧《おく》では頻《しきり》に嬰兒《あかご》の泣聲《なきごゑ》がした。
 其《それ》から煩《わづら》ひついて、何時《いつ》まで經《た》つても治《なほ》らなかつたから、何《なに》もいはないで其《そ》の内《うち》をさがつた。直《たゞ》ちに忘《わす》れるやうに快復《くわいふく》したのである。
 地方《ちはう》でも其界隈《そのかいわい》は、封建《ほうけん》の頃《ころ》極《きは》めて風《ふう》の惡《わる》い士町《さむらひまち》で、妙齡《めうれい》の婦人《ふじん》の此處《こゝ》へ連込《つれこ》まれたもの、また通懸《とほりかゝ》つたもの、況《ま》して腰元妾奉公《こしもとめかけぼうこう》になど
前へ 次へ
全17ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング