のあたりで頻《しきり》に礫《つぶて》を打《う》つやうな音《おと》がしたが、ぐる/\渦《うづ》を卷《ま》いちやあ屋根《やね》の上《うへ》を何十《なんじふ》ともない礫《つぶて》がひよい/\駈《か》けて歩行《ある》く樣《やう》だつた。をかしいから、俺《おれ》は門《もん》の處《ところ》に立《た》つて氣《き》を取《と》られて居《ゐ》たが、變《へん》だなあ、うむ、外《そと》は良《い》い月夜《つきよ》で、蟲《むし》の這《は》ふのが見《み》えるやうだぜ、恐《おそろ》しく寒《さむ》いぢやあないか、と折《をり》から歸《かへ》つて來《き》た教師《けうし》はいつたのである。
 幸《さいは》ひ美少年録《びせうねんろく》も見着《みつ》からず、教師《けうし》は細君《さいくん》を連《つ》れて別室《べつしつ》に去《さ》り、音《おと》も其《それ》ツ切《きり》聞《きこ》えずに濟《す》んだ。
 夜《よ》が明《あ》けると、多勢《おほぜい》の通學生《つうがくせい》をつかまへて、山田《やまだ》が其《その》吹聽《ふいちやう》といつたらない。鵺《ぬえ》が來《き》て池《いけ》で行水《ぎやうずゐ》を使《つか》つたほどに、事《こと》大袈裟《おほげさ》に立到《たちいた》る。
 其奴《そいつ》引捕《ひつとら》へて呉《く》れようと、海陸軍《かいりくぐん》を志願《しぐわん》で、クライブ傳《でん》、三角術《さんかくじゆつ》などを講《かう》じて居《ゐ》る連中《れんぢう》が、鐵骨《てつこつ》の扇《あふぎ》、短刀《たんたう》などを持參《ぢさん》で夜更《よふけ》まで詰懸《つめかけ》る、近所《きんじよ》の仕出屋《しだしや》から自辨《じべん》で兵糧《ひやうらう》を取寄《とりよ》せる、百目蝋燭《ひやくめらふそく》を買入《かひい》れるといふ騷動《さうどう》。
 四五日《しごにち》經《た》つた、が豪傑連《がうけつれん》何《なん》の仕出《しだ》したこともなく、無事《ぶじ》にあそんで靜《しづ》まつて了《しま》つた。
 扨《さて》其黄昏《そのたそがれ》は、少《すこ》し風《かぜ》の心持《こゝろもち》、私《わたし》は熱《ねつ》が出《で》て惡寒《さむけ》がしたから掻卷《かいまき》にくるまつて、轉寢《うたゝね》の内《うち》も心《こゝろ》が置《お》かれる小説《せうせつ》の搜索《さうさく》をされまいため、貸本《かしほん》を藏《かく》してある件《くだん》の押入《おしい
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