、舌は凍って、潮《しお》を浴びた裙《すそ》から冷え通って、正体がなくなる処を、貝殻で引掻《ひっか》かれて、やっと船で正気が付くのは、灯《あかり》もない、何の船やら、あの、まあ、鬼の支《つ》いた棒見るような帆柱の下から、皮の硬《こわ》い大《おおき》な手が出て、引掴《ひッつか》んで抱込みます。
 空には蒼《あお》い星ばかり、海の水は皆黒い。暗《やみ》の夜の血の池に落ちたようで、ああ、生きているか……千鳥も鳴く、私も泣く。……お恥かしゅうござんす。」
 と翳《かざ》す扇の利剣に添えて、水のような袖をあて、顔を隠したその風情。人は声なくして、ただ、ちりちりと、蝋燭《ろうそく》の涙《なんだ》白く散る。
 この物語を聞く人々、いかに日和山の頂より、志摩の島々、海の凪《なぎ》、霞の池に鶴の舞う、あの、麗朗《うららか》なる景色を見たるか。

       十九

「泣いてばかりいますから、気の荒いお船頭が、こんな泣虫を買うほどなら、伊良子崎の海鼠《なまこ》を蒲団《ふとん》で、弥島《やしま》の烏賊《いか》を遊ぶって、どの船からも投出される。
 また、あの巌《いわ》に追上げられて、霜風の間々《あいあい》に
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