か、無いものか言うも行過ぎた……有るものとて無いけれど、どうにか間に合わせたいものではある。」
「あら、姉さん。」
 と、三味線取りに立とうとした、お千の膝を、袖で圧《おさ》えて、ちとはなじろんだ、お三重の愛嬌《あいきょう》。
「糸に合うなら踊ります。あのな、私のはな、お能の舞の真似なんです。」と、言いも果てず、お千の膝に顔を隠して、小父者《おじご》と捻平に背向《そがい》になった初々しさ。包ましやかな姿ながら、身を揉《も》む姿の着崩れして、袖を離れて畳に長い、襦袢の袖は媚《なまめ》かしい。
「何、その舞を舞うのかい。」と弥次郎兵衛は一言云う。
 捻平膝の本をばったり伏せて、
「さて、飲もう。手酌でよし。ここで舞なぞは願い下げじゃ。せめてお題目の太鼓にさっしゃい。ふあはははは、」となぜか皺枯《しわが》れた高笑い、この時ばかり天井に哄《どっ》と響いた。
「捻平さん、捻さん。」
「おお。」
 と不性《ぶしょう》げにやっと応《こた》える。
「何も道中の話の種じゃ、ちょっと見物をしようと思うね。」
「まず、ご免じゃ。」
「さらば、其許《そのもと》は目を瞑《ねむ》るだ。」
「ええ、縁起の悪い事を言
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