《ことりまわ》し、内端《うちわ》に片膝を上げながら、床几の上に素足の胡坐《あぐら》。
 ト裾《すそ》を一つ掻込《かいこ》んで、
「早速一合、酒は良いのを。」
「ええ、もう飛切りのをおつけ申しますよ。」と女房は土間を横歩行《よこある》き。左側の畳に据えた火鉢の中を、邪険に火箸《ひばし》で掻《か》い掘《ほじ》って、赫《かっ》と赤くなった処を、床几の門附へずいと寄せ、
「さあ、まあ、お当りなさりまし。」
「難有《ありがて》え、」
 と鉄拐《てっか》に褄《つま》へ引挟《ひッぱさ》んで、ほうと呼吸《いき》を一つ長く吐《つ》いた。
「世の中にゃ、こんな炭火があると思うと、里心が付いてなお寒い。堪《たま》らねえ。女房《おかみ》さん、銚子をどうかね、ヤケという熱燗《あつかん》にしておくんなさい。ちっと飲んで、うんと酔おうという、卑劣な癖が付いてるんだ、お察しものですぜ、ええ、親方。」
「へへへ、お方《かた》、それ極熱《ごくあつ》じゃ。」
 女房は染めた前歯を美しく、
「あいあい。」

       四

「時に何かね、今|此家《ここ》の前を車が二台、旅の人を乗せて駈抜《かけぬ》けたっけ、この町を、……
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