、仰向《あおむ》いて空を見た。晴れるといまに行くよ。
 母様《おっかさん》は嘘をおっしゃらない。
 博士は頻《しきり》に指《ゆびさ》ししていたが、口が利けないらしかった。で、一散に駈《か》けて来て、黙って小屋の前を通ろうとする。
「おじさんおじさん。」
 と厳しく呼んでやった。追懸けて、
「橋銭を置いていらっしゃい、おじさん。」
 とそういった。
「何だ!」
 一通《ひととおり》の声ではない。さっきから口が利けないで、あのふくれた腹に一杯固くなるほど詰め込み詰め込みしておいた声を、紙鉄砲ぶつようにはじきだしたものらしい。
 で、赤い鼻をうつむけて、額越《ひたいごし》に睨《にら》みつけた。
「何か。」と今度は鷹揚《おうよう》である。
 私は返事をしませんかった。それは驚いたわけではない、恐《こわ》かったわけではない。鮟鱇《あんこう》にしては少し顔がそぐわ[#「そぐわ」に傍点]ないから何にしよう、何に肖《に》ているだろう、この赤い鼻の高いのに、さきの方が少し垂れさがって、上唇におっかぶさってる工合といったらない、魚《うお》より獣よりむしろ鳥の嘴《はし》によく肖ている。雀か、山雀《やまがら》
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