る処に、仰向《あおむけ》に寝転んでいて、烏の脛《あし》を捕《つかま》えた。それから畚《びく》に入れてある、あのしめじ蕈《たけ》が釣った、沙魚《はぜ》をぶちまけて、散々《さんざ》悪巫山戯《わるふざけ》をした挙句が、橋の詰《つめ》の浮世床のおじさんに掴《つか》まって、額の毛を真四角《まっしかく》に鋏《はさ》まれた、それで堪忍をして追放《おっぱな》したんだそうだのに、夜が明けて見ると、また平時《いつも》の処に棒杭にちゃんと結えてあッた。蛇籠の上の、石垣の中ほどで、上の堤防《どて》には柳の切株がある処。
 またはじまった、この通りに猿をつかまえてここへ縛っとくのは誰だろう誰だろうッて一《ひと》しきり騒いだのを私は知っている。
 で、この猿には出処がある。
 それは母様《おっかさん》が御存じで、私にお話しなすった。
 八九年前のこと、私がまだ母様のお腹《なか》ん中に小さくなっていた時分なんで、正月、春のはじめのことであった。
 今はただ広い世の中に母様と、やがて、私のものといったら、この番小屋と仮橋の他《ほか》にはないが、その時分はこの橋ほどのものは、邸の庭の中の一ツの眺望《ながめ》に過ぎないの
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