は》いたよう、堤防《どて》だの、石垣だの、蛇籠《じゃかご》だの、中洲《なかす》に草の生えた処だのが、点々《ぽっちりぽっちり》、あちらこちらに黒ずんでいて、それで湿っぽくって、暗かったから見えなかったが、少し晴れて来たから、ものの濡れたのが皆《みんな》見える。
 遠くの方に堤防《どて》の下の石垣の中ほどに、置物のようになって、畏《かしこま》って、猿が居る。
 この猿は、誰が持主というのでもない。細引《ほそびき》の麻縄で棒杭《ぼうぐい》に結《ゆわ》えつけてあるので、あの、湿地茸《しめじたけ》が、腰弁当の握飯を半分|与《や》ったり、坊ちゃんだの、乳母《ばあや》だのが、袂《たもと》の菓子を分けて与ったり、紅《あか》い着物を着ている、みいちゃんの紅雀《べにすずめ》だの、青い羽織を着ている吉公《きちこう》の目白だの、それからお邸《やしき》のかなりやの姫様《ひいさん》なんぞが、皆《みんな》で、からかいに行っては、花を持たせる、手拭《てぬぐい》を被《かぶ》せる、水鉄砲を浴《あび》せるという、好きな玩弄物《おもちゃ》にして、そのかわり何でもたべるものを分けてやるので、誰といって、きまって世話をする、飼主
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