お庭にね、ちょうど菊の花の咲いてるのが見えたから。」
先生は束髪に結った、色の黒い、なりの低い巌乗《がんじょう》な、でくでく肥《ふと》った婦人《おんな》の方で、私がそういうと顔を赤うした。それから急にツッケンドンなものいいおしだから、大方それが腹をお立ちの原因であろうと思う。
「母様、それで怒ったの、そうなの。」
母様は合点《がってん》々々をなすって、
「おお、そんなことを坊や、お前いいましたか。そりゃお道理だ。」
といって笑顔をなすったが、これは私の悪戯《いたずら》をして、母様のおっしゃること肯《き》かない時、ちっとも叱らないで、恐い顔しないで、莞爾《にっこり》笑ってお見せの、それとかわらなかった。
そうだ。先生の怒ったのはそれに違いない。
「だって、虚言《うそ》をいっちゃあなりませんって、そういつでも先生はいう癖になあ。ほんとうに僕、花の方がきれいだと思うもの。ね、母様、あのお邸《やしき》の坊ちゃんの、青だの、紫だの交《まじ》った、着物より、花の方がうつくしいって、そういうのね。だもの、先生なんざ。」
「あれ、だってもね、そんなこと人の前でいうのではありません。お前と、母
前へ
次へ
全44ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング