のよ、大方猪ン中の王様があんな三角|形《なり》の冠を被《き》て、市《まち》へ出て来て、そして、私の母様《おっかさん》の橋の上を通るのであろう。
トこう思って見ていると愉快《おもしろ》い、愉快い、愉快い。
寒い日の朝、雨の降ってる時、私の小さな時分、何日《いつか》でしたっけ、窓から顔を出して見ていました。
「母様《おっかさん》、愉快《おもしろ》いものが歩行《ある》いて行《ゆ》くよ。」
その時母様は私の手袋を拵《こしら》えていて下すって、
「そうかい、何が通りました。」
「あのウ猪。」
「そう。」といって笑っていらっしゃる。
「ありゃ猪だねえ、猪の王様だねえ。
母様《おっかさん》。だって、大《おおき》いんだもの、そして三角|形《なり》の冠を被ていました。そうだけれども、王様だけれども、雨が降るからねえ、びしょぬれになって、可哀相《かわいそう》だったよ。」
母様は顔をあげて、こっちをお向きで、
「吹込みますから、お前もこっちへおいで、そんなにしていると、衣服《きもの》が濡れますよ。」
「戸を閉めよう、母様、ね、ここん処《とこ》の。」
「いいえ、そうしてあけておかないと、お客様が通っ
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