《ばうし》をゆりあげて行《ゆ》かうとする。
「あなた。」とおつかさんが屹《きつ》とした声《こゑ》でおつしやつて、お膝《ひざ》の上《うへ》の糸屑《いとくづ》を細《ほそ》い、白《しろ》い、指《ゆび》のさきで二《ふた》ツ三《み》ツはじき落《おと》して、すつと出《で》て窓《まど》の処《ところ》へお立《た》ちなすつた。
「渡《わたし》をお置《お》きなさらんではいけません。」
「え、え、え。」
といつたがぢれつたさうに、
「僕《ぼく》は何《なん》じやが、うゝ知《し》らんのか。」
「誰《だれ》です、あなたは。」と冷《ひやゝか》で。私《わたし》こんなのをきくとすつきりする、眼《め》のさきに見《み》える気《き》にくわ[#「くわ」に「ママ」の注記]ないものに、水《みづ》をぶつかけて、天窓《あたま》から洗《あら》つておやんなさるので、いつでもかうだ、極《きは》めていゝ。
鮟鱇《あんかう》は腹《はら》をぶく/\さして、肩《かた》をゆすつたが、衣兜《かくし》から名刺《めいし》を出《だ》して、笊《ざる》のなかへまつすぐに恭《うやうや》しく置《お》いて、
「かういふものじや、これじや、僕《ぼく》じや。」
といつて肩
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