書《かたがき》の処《ところ》を指《ゆびさ》した、恐《おそ》ろしくみぢかい指《ゆび》で、黄金《きん》の指輪《ゆびわ》の太《ふと》いのをはめて居《ゐ》る。
手《て》にも取《と》らないで、口《くち》のなかに低声《こゞゑ》におよみなすつたのが、市内衛生会委員《しないえいせいくわいゐゝん》、教育談話会幹事《きやういくだんわくわいかんじ》、生命保険会社々員《せいめいほけんくわいしや/\ゐん》、一六会々長《いちろくくわい/\ちやう》、美術奨励会理事《びじゆつしやうれいくわいりじ》、大日本赤十字社社員《だいにつぽんせきじふじしや/\ゐん》、天野喜太郎《あまのきたらう》。
「この方《かた》ですか。」
「うゝ。」といつた時《とき》ふつくりした鼻《はな》のさきがふら/\して、手《て》で、胸《むね》にかけた赤十字《せきじふじ》の徽章《きしやう》をはぢいたあとで、
「分《わか》つたかね。」
こんどはやさしい声《こゑ》でさういつたまゝまた行《ゆ》きさうにする。
「いけません。お払《はらひ》でなきやアあとへお帰《かへ》ンなさい。」とおつしやつた。先生《せんせい》妙《めう》な顔《かほ》をしてぼんやり立《た》つてたが少
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