る》、夏《なつ》、秋《あき》、冬《ふゆ》、遊山《ゆさん》に来《く》る、桜山《さくらやま》も、桃谷《もゝたに》も、あの梅林《ばいりん》も、菖蒲《あやめ》の池《いけ》も皆《みんな》父様《とつちやん》ので、頬白《ほゝじろ》だの、目白《めじろ》だの、山雀《やまがら》だのが、この窓《まど》から堤防《どて》の岸《きし》や、柳《やなぎ》の下《もと》や、蛇籠《じやかご》の上《うへ》に居《ゐ》るのが見《み》える、其《その》身体《からだ》の色《いろ》ばかりが其《それ》である、小鳥《ことり》ではない、ほんとう[#「とう」に「ママ」の注記]の可愛《かあい》らしい、うつくしいのがちやうどこんな工合《ぐあひ》に朱塗《しゆぬり》の欄干《らんかん》のついた二階《にかい》の窓《まど》から見《み》えたさうで。今日《けふ》はまだおいひでないが、かういふ雨《あめ》の降《ふ》つて淋《さみ》しい時《とき》なぞは、其時分《そのころ》のことをいつでもいつてお聞《き》かせだ。

     第六

今《いま》ではそんな楽《たの》しい、うつくしい、花園《はなぞの》がないかはり、前《まへ》に橋銭《はしせん》を受取《うけと》る笊《ざる》の置《
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