中《なか》ほどで、上《うへ》の堤防《どて》には柳《やなぎ》の切株《きりかぶ》がある処《ところ》。
またはじまつた、此通《このとほ》りに猿《さる》をつかまへて此処《こゝ》へ縛《しば》つとくのは誰《だれ》だらう/\ツて、一《ひと》しきり騒《さわ》いだのを私《わたし》は知《し》つて居《ゐ》る。
で、此《この》猿《さる》には出処《しゆつしよ》がある。
其《それ》は母様《おつかさん》が御存《ごぞん》じで、私《わたし》にお話《はな》しなすツた。
八九年|前《まへ》のこと、私《わたし》がまだ母様《おつかさん》のお腹《なか》ん中《なか》に小《ちつ》さくなつて居《ゐ》た時分《じぶん》なんで、正月、春のはじめのことであつた。
今《いま》は唯《たゞ》広《ひろ》い世《よ》の中《なか》に母様《おつかさん》と、やがて、私《わたし》のものといつたら、此《この》番小屋《ばんこや》と仮橋《かりばし》の他《ほか》にはないが、其《その》時分《じぶん》は此《この》橋《はし》ほどのものは、邸《やしき》の庭《には》の中《なか》の一《ひと》ツの眺望《ながめ》に過《す》ぎないのであつたさうで、今《いま》市《いち》の人《ひと》が春《は
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