つくしい鳥《とり》の袂《たもと》を引張《ひつぱ》つて、遙《はる》かに見《み》える山《やま》を指《ゆびさ》して気絶《きぜつ》さしたこともあつたさうなり、私《わたし》の覚《おぼ》えてからも一度《いちど》誰《たれ》かが、繩《なは》を切《き》つてやつたことがあつた。其時《そのとき》はこの時雨榎《しぐれえのき》の枝《えだ》の両股《ふたまた》になつてる処《ところ》に、仰向《あをむけ》に寝転《ねころ》んで居《ゐ》て、烏《からす》の脛《あし》を捕《つかま》へた、それから畚《ふご》に入《い》れてある、あのしめぢ蕈《たけ》が釣《つ》つた、沙魚《はぜ》をぶちまけて、散々《さんざ》悪巫山戯《わるふざけ》をした揚句《あげく》が、橋《はし》の詰《つめ》の浮世床《うきよどこ》のおぢさんに掴《つか》まつて、顔《ひたひ》の毛《け》を真四角《まつしかく》に鋏《はさ》まれた、それで堪忍《かんにん》をして追放《おつぱな》したんださうなのに、夜《よ》が明《あ》けて見《み》ると、また平時《いつも》の処《ところ》に棒杭《ぼうぐひ》にちやんと結《ゆわ》へてあツた。蛇籠《ぢやかご》[#「ぢや」はママ]の上《うへ》の、石垣《いしがき》の
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