》えて居《ゐ》て下《くだ》すつて、
「さうかい、何《なに》が通《とほ》りました。」
「あのウ猪《いぬしし》。」
「さう。」といつて笑《わら》つて居《ゐ》らしやる。
「ありや猪《いぬしゝ》だねえ、猪《いぬしゝ》の王様《わうさま》だねえ。
母様《おつかさん》。だつて、大《おほき》いんだもの、そして三角形《さんかくなり》の冠《かんむり》を被《き》て居《ゐ》ました。さうだけれども、王様《わうさま》だけれども、雨《あめ》が降《ふ》るからねえ、びしよぬれになつて、可哀想《かあいさう》だつたよ。」
母様《おつかさん》は顔《かほ》をあげて、此方《こつち》をお向《む》きで、
「吹込《ふきこ》みますから、お前《まへ》も此方《こつち》へおいで、そんなにして居《ゐ》ると衣服《きもの》が濡《ぬ》れますよ。」
「戸《と》を閉《し》めやう、母様《おつかさん》、ね、こゝん処《とこ》の。」
「いゝえ、さうしてあけて置《お》かないと、お客様《きやくさま》が通《とほ》つても橋銭《はしせん》を置《お》いて行《い》つてくれません。づるい[#「づるい」はママ]からね、引籠《ひつこも》つて誰《だれ》も見《み》て居《ゐ》ないと、そゝ
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