居《ゐ》るとおもしろくツて、ちつとも嫌《いや》なことはないので、つまらない観世物《みせもの》を見《み》に行《ゆ》くより、ずつとましなのだつて、母様《おつかさん》がさうお謂《い》ひだから私《わたし》はさう思《おも》つて居《ゐ》ますもの。
それから、釣《つり》をしてますのは、ね、先生《せんせい》、とまた其時《そのとき》先生《せんせい》にさういひました。
あれは人間《にんげん》ぢやあない、簟《きのこ》なんで、御覧《ごらん》なさい。片手《かたて》懐《ふところ》つて、ぬうと立《た》つて、笠《かさ》を冠《かぶ》つてる姿《すがた》といふものは、堤坊《どて》[#「堤坊」はママ]の上《うへ》に一本|占治茸《しめぢ》が生《は》へたのに違《ちが》ひません。
夕方《ゆふがた》になつて、ひよろ長《なが》い影《かげ》がさして、薄暗《うすぐら》い鼠色《ねづみいろ》の立姿《たちすがた》にでもなると、ます/\占治茸《しめぢ》で、づゝと遠《とほ》い/\処《ところ》まで一《ひと》ならびに、十人も三十人も、小《ちひ》さいのだの、大《おほ》きいのだの、短《みぢか》いのだの、長《なが》いのだの、一番《いちばん》橋手前《はしてまへ
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