川《かは》を溯《さかのぼ》つたり、流《なが》れたりして、流網《ながれあみ》をかけて魚《うを》を取《と》るのが、川《かは》ン中《なか》に手拱《てあぐら》かいて、ぶる/\ふるへて突立《つゝた》つてるうちは顔《かほ》のある人間《にんげん》だけれど、そらといつて水《みづ》に潜《もぐ》ると、逆《さかさ》になつて、水潜《みづくゞり》をしい/\五|分間《ふんかん》ばかりも泳《およ》いで居《ゐ》る、足《あし》ばかりが見《み》える。其《その》足《あし》の恰好《かくかう》の悪《わる》さといつたらない。うつくしい、金魚《きんぎよ》の泳《およ》いでる尾鰭《をひれ》の姿《すがた》や、ぴら/\と水銀色《すゐぎんいろ》を輝《かゞや》かして刎《は》ねてあがる鮎《あゆ》なんぞの立派《りつぱ》さには全然《まるで》くらべものになるのぢやあない。さうしてあんな、水浸《みづびたし》になつて、大川《おほかは》の中《なか》から足《あし》を出《だ》してる、そんな人間《にんげん》がありますものか。で、人間《にんげん》だと思《おも》ふとをかしいけれど、川《かは》ン中《なか》から足《あし》が生《は》へたのだと、さう思《おも》つて見《み》て
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