て、母様《おつかさん》の気高《けだか》い美《うつく》しい、頼母《たのも》しい、温当《おんたう》な、そして少《すこ》し痩《や》せておいでの、髪《かみ》を束《たば》ねてしつとりして居《ゐ》らつしやる顔《かほ》を見《み》て、何《なに》か談話《はなし》をしい/\、ぱつちりと眼《め》をあいてるつもりなのが、いつか其《その》まんまで寝《ね》てしまつて、眼《め》がさめると、また直《すぐ》支度《したく》を済《す》まして、学校《がくかう》へ行《ゆ》くんだもの。そんなこといつてる隙《ひま》がなかつたのが、雨《あめ》で閉籠《とぢこも》つて淋《さみ》しいので思《おも》ひ出《だ》した序《ついで》だから聞《き》いたので、
「何故《なぜ》だつて、何《なん》なの、此間《このあひだ》ねえ、先生《せんせい》が修身《しうしん》のお談話《はなし》をしてね、人《ひと》は何《なん》だから、世《よ》の中《なか》に一番《いちばん》えらいものだつて、さういつたの。母様《おつかさん》違《ちが》つてるわねえ。」
「むゝ。」
「ねツ違《ちが》つてるワ、母様《おつかさん》。」
と揉《もみ》くちやにしたので、吃驚《びつくり》して、ぴつたり手《て》をついて畳《たゝみ》の上《うへ》で、手袋《てぶくろ》をのした。横《よこ》に皺《しは》が寄《よ》つたから、引張《ひつぱ》つて、
「だから僕《ぼく》、さういつたんだ、いゝえ、あの、先生《せんせい》、さうではないの。人《ひと》も、猫《ねこ》も、犬《いぬ》も、それから熊《くま》も皆《みんな》おんなじ動物《けだもの》だつて。」
「何《なん》とおつしやつたね。」
「馬鹿《ばか》なことをおつしやいつて。」
「さうでしやう。それから、」
「それから、※[#始め二重括弧、1−2−54]だつて、犬《いぬ》や猫《ねこ》が、口《くち》を利《き》きますか、ものをいひますか※[#終わり二重括弧、1−2−55]ツて、さういふの。いひます。雀《すゞめ》だつてチツチツチツチツて、母様《おつかさん》と父様《おとつさん》と、児《こども》と朋達《ともだち》と皆《みんな》で、お談話《はなし》をしてるじやあありませんか。僕《ぼく》眠《ねむ》い時《とき》、うつとりしてる時《とき》なんぞは、耳《みみ》ン処《とこ》に来《き》て、チツチツチて[#「チて」に「ママ」の注記]、何《なに》かいつて聞《き》かせますのツてさういふとね、※[#始
前へ 次へ
全33ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング