《をとこ》だの、女《をんな》だの七八人|寄《よ》つて、たかつて、猿《さる》にからかつて、きやあ/\いはせて、わあ/\笑《わら》つて、手《て》を拍《う》つて、喝采《かつさい》して、おもしろがつて、をかしがつて、散々《さんざ》慰《なぐさ》むで、そら菓子《くわし》をやるワ、蜜柑《みかん》を投《な》げろ、餅《もち》をたべさすワツて、皆《みんな》でどつさり猿《さる》に御馳走《ごちさう》をして、暗《くら》くなるとどや/\いつちまつたんだ。で、ぢいさんをいたはつてやつたものは、唯《たゞ》の一人《いちにん》もなかつたといひます。
あはれだとお思《おも》ひなすつて、母様《おつかさん》がお銭《あし》を恵《めぐ》むで、肩掛《シヨール》を着《き》せておやんなすつたら、ぢいさん涙《なみだ》を落《おと》して拝《をが》むで喜《よろ》こびましたつて、さうして、
※[#始め二重括弧、1−2−54]あゝ、奥様《おくさま》、私《わたくし》は獣《けだもの》になりたうございます。あいら、皆《みんな》畜生《ちくしやう》で、この猿《さる》めが夥間《なかま》でござりましやう。それで、手前達《てまへたち》の同類《どうるゐ》にものをくはせながら、人間一疋《にんげんいつぴき》の私《わたくし》には目《め》を懸《か》けぬのでござります※[#終わり二重括弧、1−2−55]トさういつてあたりを睨《にら》むだ、恐《おそ》らくこのぢいさんなら分《わか》るであらう、いや、分《わか》るまでもない、人《ひと》が獣《けだもの》であることをいはないでも知《し》つて居《ゐ》やうとさういつて母様《おつかさん》がお聞《き》かせなすつた、
うまいこと知《しつ》てるな、ぢいさん。ぢいさんと母様《おつかさん》と私《わたし》と三人《さんにん》だ。其時《そのとき》ぢいさんが其《その》まんまで控綱《ひかへづな》を其処《そこ》ン処《とこ》の棒杭《ばうぐひ》に縛《しば》りツ放《ぱな》しにして猿《さる》をうつちやつて行《ゆ》かうとしたので、供《とも》の女中《ぢよちう》が口《くち》を出《だ》して、何《ど》うするつもりだつて聞《き》いた。母様《おつかさん》もまた傍《そば》からまあ捨児《すてご》にしては可哀想《かあいさう》でないかツて、お聞《き》きなすつたら、ぢいさんにや/\と笑《わら》つたさうで、
※[#始め二重括弧、1−2−54]はい、いえ、大丈夫《だいじやうぶ》で
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