そのそ入って、ずうずうしく上り込んで、追ってもにげるような優しいんじゃない。
隣の小猫はまた小猫で、それ井戸は隣と二軒で使うもんだから、あすこの隔《へだて》から入って来ちゃあ、畳でも、板の間でも、ニャアニャア鳴いて歩行《ある》くわ。
隣の猫のこッたから、あのまた女房《おかみ》が大抵じゃないのだからね、(家《うち》の猫を)なんて言われるが嫌さに、打《ぶ》つわけにはもとよりゆかず、二三度干物でも遣ったものなら、可いことにして、まつわって、からむも可いけれど、芳さん、ありゃ猫の疱瘡《ほうそう》とでもいうのかしら。からだじゅう一杯のできもの[#「できもの」に傍点]で、一々|膿《うみ》をもって、まるで、毛が抜けて、肉があらわれてね、汚なくって手もつけられないよ。それがさ、昨夜《ゆうべ》も蚊帳《かや》の中へ入込んで、寝ていた足をなめたのよ。何の因果だか、もうもう猫にまで取着《とッつ》かれる。」
と投ぐるがごとく言いすてつ。苦笑《にがわらい》して呟《つぶや》きたり。
「ほんとうに泣《なく》より笑《わらい》だねえ。」
十三
お貞の言《ことば》途絶えたる時、先刻《さっき》より一
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