えると、持病が起って、わけもないことに泣きたくなったり、飛んだことに腹が立ったりして、まるで夢中になるもんだから、仕方なしに帰って来ると、旦那も後からまた帰る、何でも私をば一人で手放しておく訳にゃゆかないと見えて、始終一所に居たがるわ。
だもんだからどこも良《い》い処には行かれないで、金沢じゃ、あんなつまらない学校へ、腰弁当というしがない役よ。」
と一人冷かに笑うたり。
十
「何もそんなに気を揉《も》まなくッても、よさそうなものを。旦那はね、まるで留守のことが気に懸《かか》るために出世が出来ないのだ、といっても可いわ。
そんなに私を思ってくれるもんだから、夜遊《よあそび》はせず、ほんのこッたよ、夫婦になってから以来《このかた》、一晩も宅《うち》を明けたことなしさ。学校がひければ、ちゃんともう、道寄もしないで帰って来る。もっとも無口の人だから、口じゃ何ともいわないけれど、いつもむずかしい顔を見せたことはなし、地体がくすぶった何《なん》しろ、(ちょいとこさ)というのだもの。それだが、眼が小さいからちったああれでも愛嬌《あいきょう》があるよ。荒い口をきいたことなし、す
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