の高髷《たかまげ》ふっくりした前髪《まえがみ》で、白茶地《しらちゃじ》に秋の野を織出した繻珍《しゅちん》の丸帯、薄手にしめた帯腰|柔《やわらか》に、膝《ひざ》を入口に支《つ》いて会釈《えしゃく》した。背負上《しょいあ》げの緋縮緬《ひぢりめん》こそ脇《わき》あけを漏《も》る雪の膚《はだ》に稲妻《いなづま》のごとく閃《ひらめ》いたれ、愛嬌《あいきょう》の露《つゆ》もしっとりと、ものあわれに俯向《うつむ》いたその姿、片手に文箱《ふばこ》を捧《ささ》げぬばかり、天晴《あっぱれ》、風采《ふうさい》、池田の宿《しゅく》より朝顔《あさがお》が参って候《そうろう》。
謙造は、一目見て、紛《まご》うべくもあらず、それと知った。
この芸妓《げいしゃ》は、昨夜《ゆうべ》の宴会《えんかい》の余興《よきょう》にとて、催《もよお》しのあった熊野《ゆや》の踊《おどり》に、朝顔に扮《ふん》した美人である。
女主人公《じょしゅじんこう》の熊野を勤《つと》めた婦人は、このお腰元に較《くら》べていたく品形《しなかたち》が劣《おと》っていたので、なぜあの瓢箪《ひょうたん》のようなのがシテをする。根占《ねじめ》の花に蹴落
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