み出した、中には白骨でもありそうな、薄気味の悪い古葛籠《ふるつづら》が一折。その中の棚に斜《はす》っかけに乗せてあった経机《きょうづくえ》ではない小机の、脚を抉《えぐ》って満月を透《すか》したはいいが、雲のかかったように虫蝕《むしくい》のあとのある、塗《ぬ》ったか、古びか、真黒な、引出しのないのに目を着けると……
「有った、有った。」
 と嬉しそうにつと寄って、両手でがさがさと引き出して、立直って持って出て、縁側を背後《うしろ》に、端然《きちん》と坐った、お君のふっくりした衣紋《えもん》つきの帯の処へ、中腰になって舁据《かきす》えて置直すと、正面を避《さ》けて、お君と互違《たがいちが》いに肩を並べたように、どっかと坐って、
「これだ。これがなかろうもんなら、わざわざ足弱を、暮方《くれがた》にはなるし、雨は降るし、こんな山の中へ連れて来て、申訳のない次第だ。
 薄暗くってさっきからちょっと見つからないもんだから、これも見た目の幻《まぼろし》だったのか、と大抵《たいてい》気を揉《も》んだ事じゃない。
 お君さん、」
 と云って、無言ながら、懐《なつか》しげなその美い、そして恍惚《うっとり》
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