違はあるが、この縁組に申分はない。次の室《ま》つき井菊屋の奥、香都良川添《かつらがわぞい》の十畳に、もう床は並べて、膝まで沈むばかりの羽根毛《はね》蒲団《ぶとん》に、ふっくりと、たんぜんで寛《くつろ》いだ。……
寝床を辷《すべ》って、窓下の紫檀《したん》の机に、うしろ向きで、紺地に茶の縞《しま》お召の袷羽織《あわせばおり》を、撫肩《なでがた》にぞろりと掛けて、道中の髪を解放《ときはな》し、あすあたりは髪結《かみゆい》が来ようという櫛巻《くしまき》が、房《ふっさ》りしながら、清らかな耳許《みみもと》に簪《かんざし》の珊瑚《さんご》が薄色に透通る。……男を知って二十四の、きじの雪が一層あくが抜けて色が白い。眉が意気で、口許に情が籠《こも》って、きりりとしながら、ちょっとお転婆に片褄《かたづま》の緋の紋縮緬《もんちりめん》の崩れた媚《なまめ》かしさは、田舎源氏の――名も通う――桂樹《かつらぎ》という風がある。
お桂夫人は知らぬ顔して、間違って、愛読する……泉の作で「山吹」と云う、まがいものの戯曲を、軽い頬杖で読んでいた。
「御意で、へ、へ、へ、」
と唯今《ただいま》の御前《ごぜん》のお
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