の切《きれ》、色の白い細面《ほそおもて》、目に張《はり》のある、眉の優しい、純下町風俗のを、山が育てた白百合の精のように、袖に包んでいたのは言うまでもない。……
「……その大島屋の先《せん》の大きいおかみさんが、ごふびんに思召《おぼしめ》しましてな。……はい、ええ、右の小僧按摩を――小一《こいち》と申したでござりますが、本名で、まだ市名《いちな》でも、斎号でもござりません、……見た処が余り小《ちっ》こいので、お客様方には十六と申す事に、師匠も言いきけてはありますし、当人も、左様に人様には申しておりましたが、この川の下流の釜《かま》ヶ淵《ふち》――いえ、もし、渡月橋《とげつきょう》で見えます白糸の滝の下の……あれではござりません。もっとずッと下流になります。――その釜ヶ淵へ身を投げました時、――小一は二十《はたち》で、従って色気があったでござりますよ。」
「二十にならなくったって、色気の方は大丈夫あるよ。――私が手本だ。」
と言って、肩を揉ませながら、快活に笑ったのは、川崎|欣七郎《きんしちろう》、お桂ちゃんの夫で、高等商業出の秀才で、銀行員のいい処、年は四十だが若々しい、年齢にちと相
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