うひじ》の頬杖《ほおづえ》で、薄眠りをしている、一段高い帳場の前へ、わざと澄ました顔して、(お母さん、少しばかり。)黙って金箱から、ずらりと掴出《つかみだ》して渡すのが、掌《てのひら》が大きく、慈愛が余るから、……痩《やせ》ぎすで華奢《きゃしゃ》なお桂ちゃんの片手では受切れない、両の掌に積んで、銀貨の小粒なのは指からざらざらと溢《こぼ》れたと言う。……亡きあとでも、その常用だった粗末な手ぶんこの中に、なおざりにちょっと半紙に包んで、(桂坊へ、)といけぞんざいに書いたものを開けると、水晶の浄土|珠数《じゅず》一|聯《れん》、とって十九のまだ嫁入前の娘に、と傍《はた》で思ったのは大違い、粒の揃った百幾顆《ひゃくいくつ》の、皆真珠であった。
姉娘に養子が出来て、養子の魂を見取ってからは、いきぬきに、時々伊豆の湯治に出掛けた。――この温泉旅館の井菊屋と云うのが定宿《じょうやど》[#ルビの「じょうやど」は底本では「じやうやど」]で、十幾年来、馴染《なじみ》も深く、ほとんど親類づき合いになっている。その都度秘蔵娘のお桂さんの結綿《ゆいわた》島田に、緋鹿子《ひがのこ》、匹田《ひった》、絞《しぼり》
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