に媚《なまめ》かしい上掻《うわがい》、下掻《したがい》、ただ卍巴《まんじともえ》に降る雪の中を倒《さかし》に歩行《ある》く風情になる。バッタリ真暗《まっくら》になって、……影絵は消えたものだそうである。
――聞くにつけても、たしなむべきであろうと思う。――
が、これから話す、わが下町娘《したまちっこ》のお桂《けい》ちゃん――いまは嫁して、河崎夫人であるのに、この行為、この状があったと言うのでは決してない。
問題に触れるのは、お桂ちゃんの母親で、もう一昨年頃|故人《なきひと》の数に入ったが、照降町《てりふりちょう》の背負商《しょいあきな》いから、やがて宗右衛門町の角地面に問屋となるまで、その大島屋の身代八分は、その人の働きだったと言う。体量も二十一貫ずッしりとした太腹《ふとっぱら》で、女長兵衛と称《たた》えられた。――末娘《すえっこ》で可愛いお桂ちゃんに、小遣《こづかい》の出振《だしっぷ》りが面白い……小買ものや、芝居へ出かけに、お母さんが店頭《みせさき》に、多人数立働く小僧中僧|若衆《わかしゅ》たちに、気は配っても見ないふりで、くくり頤《あご》の福々しいのに、円々とした両肱《りょ
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