を一陣の迅《と》き風がびゅうと、吹添うと、すっと抜けて、軒を斜《ななめ》に、大屋根の上へ、あれあれ、もの干を離れて、白帷子《しろかたびら》の裾《すそ》を空に、幽霊の姿は、煙筒《えんとつ》の煙が懐手をしたように、遥《はるか》に虚空へ、遥に虚空へ――
群集はもとより、立溢《たちあふ》れて、石の点頭《うなず》くがごとく、踞《かが》みながら視《み》ていた、人々は、羊のごとく立って、あッと言った。
小一按摩の妄念も、人混《ひとごみ》の中へ消えたのである。
五
土地の風説に残り、ふとして、浴客の耳に伝うる処は……これだけであろうと思う。
しかし、少し余談がある。とにかく、お桂さんたちは、来た時のように、一所に二人では帰らなかった。――
風に乗って、飛んで、宙へ消えた幽霊のあと始末は、半助が赤鬼の形相のままで、蝙蝠《バット》を吹かしながら、射的店へ話をつけた。此奴《こいつ》は褌《ふんどし》にするため、野良猫の三毛を退治《たいじ》て、二月越《ふたつきごし》内証《ないしょ》で、もの置《おき》で皮を乾《ほ》したそうである。
笑話の翌朝は、引続き快晴した。近山裏の谷間には、初
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